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公益財団法人サントリー生命科学財団


研究部の狙い

複雑な生命現象の中には、ゲノム情報に直接書き込まれていない有機小分子の作用やタンパク質の相互作用様式の変化によって引き起こされるものも多く、これらの作用機構を明らかにするためには、遺伝子配列を調べるだけでは不十分です。私たちは核磁気共鳴法(NMR)や質量分析(MS)などの最先端機器分析と有機合成による分子プローブの創製技術を駆使して、天然有機化合物・タンパク質・生体膜といった生体分子の構造、それらの相互作用や複合体形成、局在や動態の変化などを分子・原子レベルの視点から明らかにすることで、生命現象の機構解明を目指しています。

構造生命科学研究部では、有機化学・生化学・分析化学・構造生物学などを基盤として、分子動態の検出・可視化、生理活性分子の同定、機能性分子の合成、生体分子の物性評価などを行っています。研究者各々の特性を活かしつつ、相互連携しながら学際的な研究を進めています。

構造生命科学研究部グループ図

構成員

【構造生命科学研究部】   
研究部長・主幹研究員 山垣 亮
 部長・主幹研究員 島本 啓子
主席研究員 野村 薫
研究員 堀川 学
研究員 原田 英里砂
研究員 菅原 孝太郎
研究員 藤川 紘樹
研究員 大場 幸江
研究員 森 祥子
 協力研究員  木村 優佳
   
 【研究企画部】  
部長  島本 啓子 
技術員  渡辺 健宏
特別技術員 大澤 月穂

*構成員名をクリックすると各人のプロフィールをご覧いただけます。

研究紹介

1. 生体分子の時空間局在解析から見る生物活性メカニズム解明

これまでの生命科学では、科学的分析手段の限界から生命現象を担う種々の生体分子が、「いつ」「どこで」「どのように」振舞うことで生命が維持されているのか?を明らかにする事は困難でした。近年、生体分子の質量分析法が飛躍的に発展したことで、ペプチドや糖鎖、様々な二次代謝物を極微量かつ網羅的に検出できる可能性が高まっています。我々は、質量分析など最先端有機機器分析を駆使して植物中の極微量の二次代謝物の時空間的変化・動態を追跡することで、植物の生理現象をより詳細に明らかにする研究を行っています。

(1) 花の色を制御する分子とその発色メカニズム
ビオラ(三色スミレの一種) 「花」は美しい色や独特な模様を持ち、ハチなどの受粉を促す昆虫を惹きつける役割を持つと考えられ、植物において子孫を残すために重要な働きをする器官の一つです。強い日光から遺伝子を守るために、光を吸収するフラボノイドと呼ばれる有機化合物が含まれています。私たちは花弁に含まれるフラボノイド類に注目して花の色や生長との関係を研究しています。
私たちは「どのような」フラボノイド類が花弁の「いつ」「どこで」「どのように」振舞うのか?を質量分析によって追跡しています。これまでの生化学的な手法では花弁を破砕抽出してフラボノイドを分析するので、位置情報は失われていました。我々は花弁を破壊せずにそのまま用いて花弁の「どこに」化合物が存在するのかをMSイメージングを使って明らかにしています。フラボノイドと花の色との関係や、花の生長に伴って分子の分布が時間的にどのように変化するのかを解析することで、植物におけるフラボノイドの生理的な役割を明らかにしようとしています。

フラボノイド類のMSイメージング

MSイメージング:
生体組織切片に数十マイクロメートル径のレーザーを直接照射し、その位置に存在する化合物を質量分析することで、どんな化合物が「いつ」、「何処に」存在するのかを可視化してくれる手法。


=生きた花弁に含まれる分子を観測する: 一細胞MS分析の可能性=
植物が生きたまま花弁の分析をできれば、植物が成長するに従い、どのようなフラボノイドがどこに現れるのか?が分かります。たくさんの細胞の内、一つの細胞だけを壊して分析することで、植物を生きたまま研究することが可能になると考えています。

一細胞質量分析

2. 脂質性生体分子の生体膜存在下での活性発現機構解明

全ての生命は生体膜を持ち、生体膜上に存在する多くの膜タンパク質を介して、物質交換や情報伝達を行っています。生体膜はリン脂質を主成分とする二重膜を基本構造としていますが、その組成は生物種や組織で全く異なっています。単純なリン脂質以外に微量の糖脂質など多くの種類の複合脂質が含まれているものの、これら微量脂質類の役割や生物学的意義は、まだはっきりと分かっていません。生体膜の機能解明が遅れている原因は、分子生物学的なアプローチが難しいことにあります。そこで我々は、有機化学的手法による微量糖脂質の同定や機能性分子の供給、物理化学的手法による膜と膜タンパク質・糖脂質との相互作用の解析に取り組んできました。本研究では、(1)大腸菌膜タンパク質挿入活性をもつ糖脂質の活性機構の解明 (2)GPIアンカー型タンパク質を単純化した模倣分子を用いたアンカーの機能解析 の2つの課題を通して、生命現象の反応場である生体膜中の脂質性生体分子の役割解明を目指しています。

(1) 糖脂質のシャペロン・酵素様活性の作用機構解明
最近、我々は大腸菌内膜(細胞膜)において膜タンパク質挿入に必須の因子MPIase (Membrane Protein Integrase)が3種のアミノ糖から成る糖鎖とリン脂質で構成される新規の糖脂質であることを明らかにしました。糖脂質が酵素のようなはたらきをする例は他に知られておらず、我々はglycolipozyme(糖脂質酵素)という概念を提唱し、以下の3つを目標に研究に取り組んでいます。

  1. 1) MPIaseの部分構造合成や天然物からの化学変換を行い、活性を示すために必要な最小限の構造を明らかにする。
  2. 2) 生合成経路を明らかにし、その基質を合成的に供給してMPIaseの生産を制御したり、新たな抗菌剤の可能性をもつ生合成酵素阻害剤を開発したりする。
  3. 3) MPIaseと脂質膜や挿入されるタンパク質との相互作用を解析し、MPIaseが膜挿入にどのように関与するのか、その活性機構を明らかにする。

合成した部分構造の活性測定や固体NMR等の物理化学的測定により、糖鎖部分が基質タンパク質と相互作用することや、MPIaseが膜の流動性を上げていることが分かってきました。MPIaseの糖鎖部分が新生タンパク質の凝集を抑制し、膜の柔らかい部分に効率的にタンパク質を挿入するモデルを推定し、その検証を進めています。MPIaseの活性機構を明らかにすることで、膜脂質の機能理解が進むばかりでなく、新しい機能性分子創製の手がかりを得ることが期待できます。

MPIase画像

(2) GPIタンパク質のアンカーの機能解明
GPIアンカー型タンパク質は、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれる糖脂質がタンパク質のC末端に翻訳後修飾された膜タンパク質です。GPIアンカー型タンパク質は酵素や細胞接着因子など体内で重要な役割を担っていますが、これまでに膜存在下におけるタンパク質の立体構造決定や運動性の解析、膜や他の分子との相互作用等の原子レベルでの解析は他の膜タンパク質ほど進んでいません。その理由は、タンパク質にGPIが付加した形で必要量を発現させ精製させることが難しいからです。そこで我々は、単純化したGPIアンカー模倣分子とタンパク質を結合させて擬似的なGPIアンカー型タンパク質を作成し、これをリポソームやバイセル等の膜に挿入した模倣的な系を調製して、膜上に存在するGPIアンカー型タンパク質と膜との相互作用を解析する事を行っています。これまでに、イモリの肢の再生を制御するGPIアンカー型のタンパク質 Prod1にこの方法を適用し、固体NMR、蛍光顕微鏡、動的光散乱を用いて、Prod1同士が膜上で会合していること、さらにProd1は膜界面だけではなく、他の膜上のProd1とも会合し、Prod1を介した膜同士の接合も起こすことを明らかにしてきました。このような擬似的なGPIアンカー型蛋白質を用いた研究は、今後もGPIアンカーの生体内での多彩な役割の解明に発展していくことが期待できます。

GPI画像

3. 植物二次代謝産物の生体内制御機構の解明

植物二次代謝産物等の低分子化合物は生活習慣病の改善等が期待される機能性成分として注目されていますが、生体内での分子レベルの作用機構はよく理解されていません。また、それ自身が存在している植物中での本来の機能についてもほとんど分かっていません。そこで本研究では、植物二次代謝物等の機能性成分の分子プローブを利用したケミカルバイオロジー的な手法による標的因子(タンパク質、DNA、RNAなど)の同定や、機能解明を目標としています。さらに、機能性成分を活用した生体機能の制御研究にも取り組んでいます。また、化学的な手法に加え、分子生物学的あるいは植物遺伝学的な手法等を効果的に活用し、本目的を達成することを目指しています。

植物二次代謝産物等の機能性成分の分子レベルでの作用機能の解明

本研究では、(1)植物二次代謝物としてゴマリグナン類に注目し、その生合成機構の解明と植物中での機能に関する研究、および、(2)多様な植物二次代謝物を利用し、特異的なグアニン四重鎖構造の認識を目指したケミカルバイオロジー研究を計画しました。

(1) ゴマリグナンの役割およびその生合成酵素機能の解明
我々はセサミンやセサモリンに代表されるゴマリグナンに着目し、それらが主に蓄積しているゴマ種子中での機能解明を目指し、リグナン類をプローブに用いたアフィニティスクリーニングにより、ゴマ種子中の標的候補因子として、ステロール結合型脱水素酵素の一種を同定しています。分光学的な手法やモデル植物への遺伝子導入により、リグナン類と標的候補因子が直接相互作用している可能性を見出しています。
また、セサミンに至るまでのゴマリグナンの生合成は報告されていますが、主要なゴマリグナンの一つであるセサモリンやセサミノール配糖体のアグリコン部の生合成は不明です。リグナン類の植物中での機能を理解するために、その生合成についても解決しようと試みています。

コマリグナン類

(2) 植物二次代謝産物の骨格を利用した核酸高次構造プローブの開発
植物二次代謝産物の新たな機能として、核酸高次構造の一種であるグアニン四重鎖に作用し、遺伝子発現を直接調節することが報告されています。グアニン四重鎖はテロメア長の調節(=寿命)や転写、翻訳制御(=遺伝子制御)に関わることが示唆されていますが、その詳細なメカニズムについては依然として不明な点が多く残されています。そこで本構造の分子レベルでの機能解明を目的に機能性プローブ開発を行っています。植物二次代謝産物の一種であるベルベリンの化学構造とグアニン四重鎖への結合状態に着目し、その特異的蛍光プローブとして、ベルベリン二量体を開発しました。分子レベルで の詳細な相互作用解析の結果、ベルベリン二量体はグアニン四重鎖に結合することで自身の構造を変化させ、その構造変化を蛍光シグナル強度へと変化させる turn-on 型の蛍光プローブであることが明らかとなりました(図)。今後、本分子あるいは更なる機能を付与するように創製した分子を用いて、グアニン四重鎖の生物学的な機能解明へと発展させます。

植物二次代謝産物の骨格を利用した核酸高次構造プローブの開発

4. 生理活性天然有機化合物の同定

天然有機化合物には、特徴的な構造や顕著な生物活性が見られるものが数多く存在します。HPLCやGCを駆使した分析と質量分析・高分解能NMR等を用いた構造解析により、微量成分や複雑な構造をもつ天然有機化合物の単離・同定に取り組んでいます。超高分解能Orbitrap-MSや超高磁場型800 MHz NMRなどの最先端分析機器が活躍しています。

(1) 紅藻ハナヤナギ由来パリトキシン類の構造決定
魚介類を介した食中毒の中には、海洋生物の産生する二次代謝物よる事例が多数報告されており、原因化合物の微量分析や産生者の同定は科学的のみならず社会的な見地からも重要です。
本研究で対象としたハナヤナギは、古くは鹿児島県において虫下しとして用いられてきた紅藻です。ハナヤナギに含まれる活性成分としては、記憶喪失性貝毒の要因であるドウモイ酸がよく知られていますが、殺虫活性を指標とした探索において、ドウモイ酸の1,000倍程度の強い活性を有する化合物が他にも含まれることが分かりました。本化合物の分子量は約2,700と非常に大きいため、NMRシグナルが重複しその解析は極めて困難でしたが、選択励起パルスを用いた1D TOCSYなどの手法を駆使し、1H、13Cシグナルの帰属を行いました。その結果、本化合物がパリトキシンであると決定することができました。また既報のNMRシグナル帰属を一部改定しました。
パリトキシンは、繰り返し構造を持たない天然物としては極めて大きく、非常に強い毒性を有しています。当初パリトキシンは、腔腸動物イワスナギンチャクから単離された化合物でしたが、本研究によって初めて海洋植物にも含まれていることが分かりました。パリトキシンおよびその類縁体の構造解析は、パリトキシンの生合成や海洋生態系での動態を知る上で重要であると言えます。

palytoxin画像 triterpene画像

(2) GLP-1分泌促進活性を有するゴーヤ特有のククルビタン型トリテルペン類の構造解析
ゴーヤは、血糖値を下げる作用があると言われ、その活性成分は、ゴーヤ特有のククルビタン型トリテルペン類であると報告されていますが、詳細な理解には至っていません。我々は、血糖値調節に寄与するGLP-1分泌活性を指標に活性成分の探索を行ったところ、上記トリテルペン類を含む画分に高い活性があることを見出しています。それら画分に含まれるトリテルペン類の構造解析を行うとともに、同定した主要なトリテルペン類にGLP-1分泌活性があることを確認しています。

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研究成果

  【原著論文】

  <2020年〜2018年>

   <2017年以前

 

  
  【総説・著書】

  【知財】【受賞】

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