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2025.05.26 研究業績

高橋主幹研究員と高瀬研究員らがオスマウスにおける加齢による肥満化のしくみの一端を解明しました

オスマウスの加齢による肥満化は代謝型ムスカリン性アセチルコリン受容体M4により調節されている。

【発表論文】
“Weight gain with advancing age is controlled by the muscarinic acetylcholine receptor M4 in male mice” Endocrinology (2025) 166 bqaf064
高橋俊雄1、高瀬悠太1、白石慧1、松原伸1、渡辺健宏1、桐本真治2、山垣亮1、大沢匡毅3

1.公益財団法人サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所 2.KAC 3.岐阜大学大学院医学系研究科・医学部

Open access DOI: 10.1210/endocr/bqaf064

■研究の背景:加齢による肥満化のメカニズムは?
 肥満は糖尿病や高血圧などの様々な生活習慣病につながることから大きな健康問題となっています。特に、欧米型の高カロリーの食事が普及し、飽食が進む現代では、男性に多い加齢性肥満(加齢に伴って太りやすくなること、いわゆる中年太り)の発症メカニズムの解明は喫緊の課題です。これまでの研究から、加齢性肥満の原因として全身の代謝の低下が挙げられていますが、加齢に伴って白色脂肪が蓄積する原因やメカニズムは不明でした。

■研究の成果:鍵を握るのは「代謝型ムスカリン性アセチルコリン受容体M4」 
 我々は、代謝型ムスカリン性アセチルコリン受容体の1つM4を遺伝子破壊(ノックアウト:KO)したマウス(M4-KOマウス)のオスが野生型マウス(WTマウス)に比べて肥満となり、白色脂肪が著しく蓄積していることを見出しました。M4-KOマウスの体重変動(8週齢~20週齢)を調べたところ、18週齢以降からWTマウスに比べて有意に体重の増加が認められました。また、M4-KOマウスの摂餌量を調べたところ、1週間の摂餌量の平均はWTマウスと変わりないことを確認しました。M4-KOマウスの運動量を解析した先行知見(Gomeza et al. PNAS, 1999)の結果を踏まえると、M4-KOマウスにおける加齢による肥満化の要因は、摂餌量の増加でも自発運動の減少でもない(食べ過ぎでも運動不足でもない)ことが示唆されました。

 次に、20週齢のM4-KOマウスとWTマウスを比較して、体内で何が起こっているのかを解析しました。体内に脂肪が蓄積すると白色脂肪細胞からレプチンが分泌されます。そこで、M4-KOマウスの血中レプチン濃度を測定したところ、予想通り、WTマウスと比べて有意に増加が認められました。また、RNA-Seq法によるトランスクリプトーム解析及び定量PCRを行った結果、M4-KOマウスの皮下脂肪組織では、白色脂肪細胞マーカー遺伝子の発現が有意に増加し、一方で褐色/ベージュ脂肪細胞マーカー遺伝子の発現が顕著に減少していました。さらに、M4-KOマウスの脳では、摂食行動やエネルギー代謝調節に関与する因子(NPGL)の遺伝子発現が有意に上昇していました。
 オスのM4-KOマウスでは白色脂肪の著しい蓄積が見られることから、レポーターマウスを用いて皮下脂肪組織におけるM4発現細胞を解析したところ、白色脂肪細胞及び間葉系幹細胞に局在していることを見出しました。さらに、皮下脂肪組織においてアセチルコリン(ACh)を分泌しているのはマクロファージであることを明らかにしました。M4-KOマウスにおいてオスのみが加齢性肥満を示す要因の一端を明らかにするために、M4遺伝子の発現量に着目した解析を行いました。その結果、WTオスマウスの皮下脂肪組織では、加齢に伴ってM4遺伝子の発現量が減少するのに対し、WTメスマウスの皮下脂肪組織ではそのような発現量変化は認められませんでした。この結果は、オス特異的な加齢性肥満の発症メカニズムの一端を説明するものと考えられます。

■まとめと今後の展望
 マクロファージから放出される内因性AChが代謝型M4を介して脂肪細胞の分化・増殖を制御している可能性が示唆されました。本研究により、非神経性コリン作動系を介した新たなホメオスタシスの維持機構の一端が明らかとなり、加齢性肥満に起因する生活習慣病の未病段階での予防法や画期的な治療法の開発につながることが期待されます。

本研究は、JSPS科研費JP20K06751及びJP23K05862の助成を受けて実施された。

代謝型M4を介した加齢性肥満の発症メカニズム

内容に関する問い合わせ先: 高橋( ←Click )

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