カテプシン D は視床下部-下垂体-性腺系とは独立してタキキニン誘導性マウス二次卵胞の成長を媒介する。
【発表論文】
“Cathepsin D Mediates Tachykinin-Induced Secondary Follicle Growth Independent of the Hypothalamic–Pituitary–Gonadal Axis in Mice.”
Front Endocrinol. (2025) 16: 1621348
川田 剛士1、青山 雅人23、安田 恵子2、佐竹 炎1
1.公益財団法人サントリー生命科学財団 生物有機科学研究所 2.奈良女子大学 理学部化学生物環境学科 3.ニプロ株式会社
Open access DOI: 10.3389/fendo.2025.1621348
■研究の背景:卵胞の成長とカテプシンD の関係は?
カテプシンD はタンパク質分解酵素であり、魚やカエルなどで卵が作られるときに卵の栄養となるビテロジェニンを分解します。私たちはこれまでに、無脊椎動物の中でも脊椎動物に近い生き物(原索動物)であるホヤの研究から、神経ペプチドのタキキニン(TK)がカテプシンD の働きを強めることでホヤの卵胞の成長を促すことを発見しました(Aoyama et al. Endocrinol 2008, Aoyama et al. Peptides 2012, Kawada et al. Front Endocrinol 2022, Satake and Sasakura Mol Cell Endocrinol 2023, Satake et al. Zoolog Sci 2024)。しかし、卵を産まない哺乳類にはビテロジェニンが存在せず、カテプシンD が哺乳類の卵胞の成長に関わるかどうか明らかにされていませんでした。
■研究の成果:カテプシンD がマウスの二次卵胞を成長させる
生まれて2週間のまだ性が成熟していないマウスで、発育途中の卵胞(二次卵胞)の卵母細胞の周りを取り囲む細胞(顆粒膜細胞)にカテプシンD と TK の受容体が共に存在することがわかりました。また、2週齢のマウスの卵巣に TK を加えると、カテプシンD の遺伝子の発現や酵素の働きが強くなることが確認されました。さらに、マウスの二次卵胞のカテプシンD の働きを止めると、卵胞の成長が大きく抑えられました。これらの研究結果をまとめると、マウスの二次卵胞の顆粒膜細胞の TK 受容体に TK が作用することでカテプシンD の働きが強まり、顆粒膜細胞内のタンパク質を分解することで、二次卵胞の成長を助けていると考えられます。
■卵胞成長システムの進化的な視点
マウスとホヤの両方で TKがカテプシンD の働きを強めて卵胞の成長を促すことから、この卵胞を成長させる仕組みは進化的に古い時代から広く受け継がれている可能性が考えられます。この TK とカテプシンD によって卵胞を成長させる仕組みは、脊椎動物で特徴的な性腺刺激ホルモンを中心とした卵胞の成長の仕組み(視床下部-下垂体-性腺系)よりも、もっと広く多くの動物に共通する基本的な仕組みかもしれません。一方で、この TK が誘導する卵胞を成長させる仕組みはマウスとホヤで異なる点もあり(マウスではカテプシンD が分解するタンパク質はビテロジェニンではない・TK が作られる組織や細胞がマウスとホヤで異なる・マウスではプロスタグランジンも TK 誘導性卵胞成長の仕組みに関わる Kawada et al. J Biol Chem 2025 2025.04.07 研究業績)、進化の過程でこの TK が誘導する卵胞成長の仕組みの多様化も生まれています。

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