植物の細胞伸長におけるTCP転写因子の機能の一端を明らかにしました。
【発表論文】
“TCP3-mediated regulation of cell expansion in Arabidopsis thaliana”
New Phytologist (2025)
小山知嗣1、 國枝正2,3、豊永宏美1、 延原美香1、 光田展隆4、 曽我康一5、石田順子6、 関原明6、 高橋宏二7,8、 木下俊則7,8、 別所歩武2、 出村拓2,3、 高木優9
1, 公益財団法人サントリー生命科学財団・生物有機科学研究所
2, 奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス領域
3, 奈良先端科学技術大学院大学・デジタルグリーンイノベーションセンター
4, 産業技術総合研究所・バイオものづくり研究センター
5, 大阪公立大学大学院・理学研究科
6, 理化学研究所・環境資源科学研究センター
7, 名古屋大学大学院・理学研究科
8, 名古屋大学・トランスフォーマティブ生命分子研究所
9, National Cheng Kung University, College of Bioscience and Biotechnology
Open access DOI: 10.1111/nph.70631
■研究の背景:硬い壁で支え、壁を緩めて伸長する「細胞壁のパラドックス」
植物細胞は、外側を硬い細胞壁で囲まれ、形と強度を保っています。一方で、成長するためには壁を一時的に緩めて細胞を伸ばす必要があります。この一見相反する関係「細胞壁のパラドックス」をどう両立させているのでしょうか?本研究は、細胞外のpHが鍵になるという古典的な観察による仮説を、TCP転写因子(植物器官の形づくりを司る制御因子)の機能が支持することを、生体内で検証しました。
■研究の成果:TCP転写因子の役割―細胞外を弱酸性pHに保ち、壁を緩めて伸長する-
私達はモデル植物シロイヌナズナで、TCP転写因子が細胞伸長を調節する重要な役割を担うことを示しました。TCP転写因子は「壁を緩める働きのあるタンパク質」の発現を高め、さらに細胞膜に存在する「酸(プロトン:H⁺)を細胞外へ送り出すポンプ」を活性化し、細胞外pHを弱酸性に保ちました。その結果、細胞壁の硬さが低下して細胞が伸びやすくなり、胚軸(幼苗の茎)が伸長しました。私達は、細胞外pHの可視化、壁の力学(硬さ)測定、細胞サイズの解析を組み合わせて、TCP転写因子→pH弱酸性化→壁の緩み→細胞伸長という情報の流れを、器官形成の場で支持する結果を得ました。TCP転写因子の働きを弱めた変異体ではこの情報伝達が弱まり、逆にTCP転写因子の作用を強める操作で情報伝達が強まったことから、遺伝学的にも本情報伝達を後押しする結果を得ました。
■まとめと今後の展望
本研究は、TCP転写因子が細胞外pH酸性化を引き金に細胞壁を緩めて細胞伸長する仕組みの妥当性を植物生体内で示しました。将来は植物の草丈や形を調節するための基礎知識として、栽培や品種改良に貢献することが期待されます。

本研究は、科学研究費助成事業JSPS KAKENHI JP25K09671の助成を受けて実施されました。
内容に関する問い合わせ先: 小山( ←Click )