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2023.09.21 研究業績

日本糖質学会でW受賞!

~第26回奨励賞(藤川研究員)・第24回ポスター賞(森研究員)~

(2023年9月7日受賞式)

 日本糖質学会は、糖質科学に関する基礎および応用研究の発展向上を図り、糖質研究者および技術者の連携と交流を深める目的で設立された学会です。奨励賞は、糖質科学の分野で優れた研究成果を挙げた満40歳以下または学位取得後10年以内の学会員に、ポスター賞は、年会において優れたポスター発表を行った満35歳以下の学会員に授与されます。
 2023年度の第26回奨励賞に藤川紘樹研究員が選ばれました。また、昨年度の年会において森祥子研究員が第24回ポスター賞に選ばれており、とりぎん文化会館(鳥取、2023年9月7-9日)で開催された2023年度の第42回年会においてダブルで表彰されました。藤川研究員の受賞講演もあり、これまでの研究成果が発表されました。

第26回日本糖質学会奨励賞 「精密合成を起点とした糖鎖機能解明研究」 藤川紘樹

 藤川研究員は、微生物から動植物に広く存在し、微量で不均一、分子生物学的なアプローチのみでは解析が難しい複合糖質(糖脂質、糖タンパク質など)に対して、有機化学的な手法による均一な標品を用いた機能解明に取り組んできました。
 当財団では、岩手大学 西山賢一研究室との共同研究で大腸菌の膜タンパク質を内膜へ挿入する働きを持った糖脂質MPIase (Membrane Protein Integrase)(図1a)の機能解明研究を行ってきました。微量で不均一な大腸菌の糖鎖に対して、種々の糖鎖長(3糖、6糖、9糖)を持ったmini-MPIaseをはじめ、特徴的な官能基を改変した10種類以上の類縁体の化学合成を達成し、均一な標品を用いた膜タンパク質膜挿入活性試験を実施しました。その結果、MPIaseの分子レベルでの構造活性相関を明らかにする事ができ(図1b)、大腸菌のトランスロコン非依存型の膜タンパク質膜挿入機構の提唱に至りました1,2,3。その他にも、分子内セラミド導入反応を鍵とするガングリオシド系統的合成法の開発4,5(岐阜大学)、糖鎖の迅速合成を目的とした新規合成手法の開発6,7,8(ミズーリ大学)、高マンノース型糖鎖ライブラリーを用いた糖タンパク質品質管理機構の解明9,10(ERATO伊藤グライコトリロジー)など、オリジナルな手法で複雑な糖鎖の合成を実現し、糖鎖の機能解明に挑戦する長年の取り組みが評価され、今回の受賞につながりました。

図1 (a) MPIaseと合成類縁体の構造 (b) MPIaseの構造活性相関図

【参考文献】[1] ACS Chem. Biol. 2018, 13, 2719. [2] Adv. Carbohydr. Chem. Biochem. 2022, 81, 95. [3] Chem. Eur. J. 2023, 29, e202300437. [4] Tetrahedron Lett. 2010, 51, 1126. [5] Chem. Eur. J. 2011, 17, 5641. [6] Chem. Commun. 2011, 47, 10602. [7] Org. Lett. 2012, 14, 3036. [8] J. Org. Chem. 2013, 78, 6849. [9] Chem. Eur. J. 2015, 21, 3224. [10] Chem. Rec. 2016, 16, 35.

第24回日本糖質学会ポスター賞「膜タンパク質膜挿入に関わる糖脂質 MPIase と基質タンパク質の相互作用解析」森 祥子

 第41回日本糖質学会(2022年秋開催)のポスターセッションの演題の中から、申請された42題(全発表件数165題)を対象に、発表要旨、ポスターの出来栄え、発表内容および質疑応答などの諸点を踏まえ、計4名の受賞者が決定されました。受賞対象となったポスターは、「膜タンパク質膜挿入に関わる糖脂質 MPIase と基質タンパク質の相互作用解析」(森 祥子1、野村 薫1、藤川 紘樹1、大澤 月穂1、西山 賢一2、島本 啓子1,31サントリー生命科学財団、2岩手大学農学部、3大阪大学大学院理学研究科)です。本研究では、大腸菌において膜タンパク質の膜挿入を促進する糖脂質MPIaseの作用機構を明らかにするため、モデル基質であるタンパク質との溶液中における分子間相互作用を主に物理化学的手法を用いて解析しました。これにより、MPIaseは長い糖鎖で新生タンパク質を捕捉し二次構造を変化させることで凝集を抑制したのち、アセチル基などによる速い結合・解離を繰り返しながらピロリン酸の存在する膜表面へとタンパク質を運搬するという膜挿入機構(図2)を提唱しました。(参考文献:ACS Chem. Biol. 2022, 17, 609−618.)

図2 MPIaseによる膜挿入機構
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