研究テーマ詳細

植物におけるリグナン類の生合成と生理機能の解明

 植物特化代謝物等の低分子化合物は生活習慣病の改善等が期待される機能性成分として注目されていますが、植物中での本来の機能についてはほとんど分かっていません。そこで本研究では、植物特化代謝物の生合成を明らかにし、化学的、あるいは、遺伝学的な手法により特化代謝物の生成を制御し、特化代謝物の生理機能を理解することを目指しています。また、特化代謝物を分子プローブとしたケミカルバイオロジー的な手法を用いて、特化代謝物が直接作用する標的因子の同定や機能解析を目指しています。さらに、特化代謝物の生合成酵素の分子レベルでの詳細な機能解析により、タンパク質の構造や機能の理解にも貢献したいと考えています。
我々は様々な植物特化代謝物の中でも、ゴマ種子に含まれるリグナン類(図1)に着目し、化学的な手法に加え、分子生物学的あるいは植物遺伝学的な手法等を効果的に活用し、その生合成やそれらの生理機能の解明を目指しています。

ゴマリグナンの生合成
 ゴマ栽培種(Sesamum indicum)の種子には、セサミン、セサモリン、セサミノール配糖体と呼ばれるゴマリグナン類が種子重量比で1%程度蓄積していることが知られています(図1)。それらの生合成については、これまでに、モノリグノールであるコニフェリルアルコールの二量化により生成するピノレジノールの酸化反応からセサミンが生成することが報告されていましたが、セサミンの酸化生成物と考えられるセサミノールやセサモリンがどのように生成するかは解明されていませんでした。我々は、2017年にセサミンを酸化してセサミノールとセサモリンを生成するP450酵素SiCYP92B14を同定し、報告しています(図2)

図1.ゴマ栽培種および野生種の種子に蓄積するリグナン類

 また、登熟種子におけるセサミン、セサモリン等の脂溶性リグナン類は、発芽時に酸化配糖化されてリグナン配糖体が生成することが知られています。我々は、それらの生合成酵素の同定やリグナン類の生理機能解析も進めています。

図2.ゴマ栽培種の種子に蓄積するリグナン類の生合成

ゴマ栽培種の種子には、セサミン、セサモリン、セサミノール配糖体などのリグナン類と呼ばれる特化代謝物が蓄積している。P450酵素CYP92B14は、セサミンを酸化してセサミノールとセサモリンを生成する。

セサミン結合タンパク質の同定
 ゴマリグナンの生理機能を理解するため、セサミンを分子プローブとしたアフィニティスクリーニングを行い、ゴマ発芽種子サンプルから調整したタンパク質画分に含まれるステロレオシンBを同定しました。ステロレオシンBは、オイルボディの膜状に存在するオレオシンやカレオシン同様に、オイルボディの構成タンパク質であることが知られていましたが、その機能についてよく分かっていませんでした。そこで、モデル植物であるシロイヌナズナに、セサミン合成酵素であるCYP81Q1とステロレオシンBを共発現し、植物体の表現型を確認したところ、CYP81Q1、および、ステロレオシンB単独で発現した植物体の表現型に変化はありませんでしたが、共発現体では植物体の生長が抑制されており、セサミンとステロレオシンBの相互作用が植物生長に影響を与ええることを確認しました。ゴマ植物における両成分の相互作用がどのような生理機能を担っているか、現在もその解明を目指しています。

セサミン酸化酵素の機能解析
 ゴマ栽培種種子で見出したセサミン酸化酵素SiCYP92B14は、セサミンを酸化してセサモリンとセサミノールを生成します。詳細な反応機構研究により、セサモリンの生成は、セサミンの芳香環のC1位の酸化に引き続いて起こる炭素-炭素結合の開裂を含む転移反応ORA(oxidative rearrangement of α-oxy-substituted aryl groups)により進行していることがわかりました。また、セサミノールの生成は、ORAとC6位の酸化の2種類の反応機構により進行します(図3A)1,2

 野生種には、セサミノールが生合成前駆体と考えられるセサンゴリンというリグナン類が主要なリグナンとして蓄積しているものがあり、CYP92B14ホモログの存在が示唆されました。そこで、SiCYP92B14を鋳型とした遺伝子解析から、野生種Sesamum radiatumの種子にSrCYP92B14の存在を確認し、その反応性を確認したところ、SrCYP92B14はセサミノールを特異的に生成する酵素でした(図3B)。また、SiCYP92B14とSrCYP92B14間の変異体解析から、ORAの反応特異性(図3A, a vs b)に関与するアミノ酸残基を見出しましたが、酸化反応の位置選択性(図3A, a+b vs c)の制御には至らず、引き続き、代謝産物の生成比を制御するアミノ酸残基の特定を目指しています。

図3.CYP92B14の反応機構と反応特異性

A.CYP92B14の反応機構
CYP92B14によるセサミンの芳香環のC1位の酸化の後、炭素-炭素結合の開裂および再結合により、セサモリンあるいはセサミノールが生成する(経路aおよびb)。また、セサミノールは、セサミンの芳香環のC6位の酸化によっても生成する(経路c)。C1位の酸化に基づいた経路aおよびbの一連の反応をoxidative rearrangement of α-oxy-substituted aryl groups(ORA)と名付けた。

B.栽培種のSiCYP92B14と野生種S.radiatumのSrCYP92B14の反応特異性
重水素化セサミンを用いた酵素反応生成物のNMR解析等により、SiCYP92B14とSrCYP92B14の反応特性の違いを明らかにすることができた。

参考文献
1.1. Murata, J., Ono, E., Yoroizuka, S., Toyonaga, H., Shiraishi, A., Mori, S., Tera, M., Azuma, T., Nagano, A. J., Nakayasu, M., Mizutani, M., Wakasugi, T., Yamamoto, M. P., Horikawa, M.
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2.Tera, M., Koyama, T., Murata, J., Furukawa, A., Mori, S., Azuma, T., Watanabe, T., Hori, K., Okazawa, A., Kabe, Y., Suematsu, M., Satake, H., Ono, E., Horikawa, M.
“Identification of a binding protein for sesamin and characterization of its roles in plant growth.”
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3.Harada, E., Murata, J., Ono, E., Toyonaga, H., Shiraishi, A., Hideshima, K., Yamamoto, MP., Horikawa, M.
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