研究テーマ詳細

糖脂質がタンパク質を細胞膜に埋め込むしくみの解明

全ての生命は生体膜を持ち、生体膜上に存在する多くの膜タンパク質を介して、物質交換や情報伝達を行っています。生体膜はリン脂質を主成分とする二重膜を基本構造としていますが、その組成は生物種や組織で全く異なっています。単純なリン脂質以外に微量の糖脂質など多くの種類の複合脂質が含まれているものの、これら微量脂質類の役割や生物学的意義は、まだはっきりと分かっていません。生体膜の機能解明が遅れている原因は、分子生物学的なアプローチが難しいことにあります。そこで我々は、有機化学的手法と物理化学的手法を用いた両面からのアプローチにより、生命現象の反応場である生体膜中の脂質性生体分子の役割解明を行ってきました。

糖脂質のシャペロン・酵素様活性の作用機構解明
我々はこれまでに、大腸菌内膜(細胞膜)において膜タンパク質挿入に必須の因子MPIase (Membrane Protein Integrase)が3種のアミノ糖の繰り返し構造から成る糖鎖とピロリン脂質で構成される新規の糖脂質であることを明らかにしました(図1)。糖脂質が酵素のようなはたらきをする例は他に知られておらず、我々はglycolipozyme(糖脂質酵素)という概念を提唱し、MPIaseによる「酵素様」「シャペロン様」活性の機構の解明を目指しています。これまでに次のような成果が得られています。

図1. MPIaseとその最小活性構造

(1)MPIaseが膜挿入活性を示すために必要な最小活性構造の合成に成功しました(図1)。さらに、様々なMPIase類縁体合成を達成し、その活性測定により、膜挿入活性に重要な官能基を同定しました。

(2)(1)で合成した各種MPIase類縁体や天然MPIaseを用いて膜-MPIase-基質タンパク質間の相互作用をNMR、SPRや蛍光測定等で解析しました。
(3)MPIaseの生合成中間体や基質候補を合成的に供給し、共同研究により、MPIase生合成の初期段階反応を明らかにしました。

これらの研究により、MPIaseがどのように膜挿入に関与するのか、その挿入機構が明らかになってきました(図2)。

図2. MPIaseによる膜挿入メカニズム

大腸菌の微量成分であるジアシルグリセロール(DAG)は膜深部の運動性を下げることで、無秩序な自発的挿入を抑制する。一方、MPIaseはDAGの効果を打ち消し、膜運動性を元に戻すことで、膜深部へのアクセスを容易にする(step0)。MPIaseの糖鎖部が素早く基質タンパク質を捕捉する(step1)。基質タンパク質の2次構造を変化させて凝集を防ぐ(step2)。MPIaseのピロリン酸は塩基性アミノ酸との静電相互作用により基質タンパク質を膜上に引き寄せる(step3)。基質タンパク質の膜貫通部位は膜脂質の疎水性相互作用により膜内に侵入する(step4)。さらに大腸菌には膜シャペロンが存在しており、基質タンパク質を受け取ることで膜貫通を完成させると考えられる(step5)。

これからも、より複雑なMPIase類縁体の合成と膜挿入関連タンパク質を含めた相互作用解析により、より詳細な膜挿入機構の理解を目指します。この様にMPIaseの活性機構を明らかにすることで、膜脂質の機能理解が進むばかりでなく、新しい機能性分子創製の手がかりを得ることが期待できます。

【原著論文】

1.Nomura, K., Mori, S., Fujikawa, K., Osawa, T., Tsuda, T., Yoshizawa-Kumagaye, K., Masuda, S., Nishio, H., Yoshiya, T., M., Yoda, T., Shionyu, M., Shirai, T., Nishiyama, K., Shimamoto, K.
“Role of a bacterial glycolipid in Sec-independent membrane protein integration”
Sci. Rep.12, 12231 (2022). [Publisher]

2.Mori, S., Nomura, K., Fujikawa, K., Osawa, T., Shionyu, M., Yoda, T., Shirai, T., Tsuda, T., Yoshizawa-Kumagaye, K., Masuda, S., Nishio, H., Yoshiya, T., Suzuki, S., Muramoto, M., Nishiyama, K., Shimamoto, K.
“Intermolecular interactions between a membrane protein and a glycolipid essential for membrane protein integration.”
ACS Chem. Biol.17, 609–618 (2022). [Publisher]

3.Nomura, K., Yamaguchi, T., Mori, S., Fujikawa, K., Nishiyama, K., Shimanouchi, T., Tanimoto, Y., Morigaki, K., Shimamoto, K.
“Alteration of membrane physicochemical properties by two factors for membrane protein integration”
Biophys. J.117, 99–110 (2019). [Publisher]

4.Fujikawa, K., Suzuki, S., Nagase, R., Ikeda, S., Mori, S., Nomura, K., Nishiyama, K., Shimamoto, K.,
Syntheses and activities of the functional structures of a glycolipid essential for membrane protein integration”
ACS Chem. Biol., 13, 2719–2727 (2018). [Publisher]

【総説・著書】

1.Fujikawa, K.; Nomura, K.; Nishiyama, K. I.; Shimamoto, K.
“Novel glycolipid involved in membrane protein integration: Structure and mode of action” J. Synth. Org. Chem. Jpn. 77, 1096–1105 (2019). [Publisher]

2.Fujikawa, K.; Nishiyama, K. I.; Shimamoto, K.
“Enzyme-like glycolipids MPIase involved in membrane protein integration of E. coliTrends. Glycosci. Glyc., 31, E151–E158 [Publisher]; J149–J155 [Publisher] (2019).

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